ブルーラジカルとは?インプラント周囲炎と歯周病の新しい治療法を解説
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ブルーラジカルは「歯茎を切らずに行える、歯周病やインプラント周囲炎の新たな治療方法」です。LEDライトと薬剤の力で細菌を殺菌するため、従来のフラップ手術のような痛みや腫れを回避できます。そのため「重度の歯周病である」「外科処置は怖い」「痛い治療は避けたい」といった方の新たな選択肢となります。
この記事では、ブルーラジカルの仕組みから費用、歯科医院選びのポイントまで、治療を検討している方が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
※Blue Radical(ブルーラジカル)は、東北大学発の医療機器企業「Luke株式会社」が開発した歯周病治療であり、同社および同社代表・菅野 太郎氏ほかの登録商標です。
この記事の監修医師
大津 雄人 歯科医師
- 監修
口腔インプラントを専門とする歯科医師です。東京歯科大学歯学部、東京歯科大学大学院歯学研究科(口腔インプラント学)を卒業しました。現在は、医療法人社団GLANZ大津歯科医院の院長ならびに、東京歯科大学インプラント科の臨床講師も務めています。
研究分野は「インプラント周囲顎骨における骨微細構造特性解析」であり、論文としては「Structural characteristics of the bone surrounding dental implants placed into the tail-suspended mice」が公開されています。
ブルーラジカルの仕組みと原理を分かりやすく解説
ブルーラジカルは「従来とはまったく違ったアプローチによる歯周病の治療方法」です。「切らない・痛くない」をコンセプトにした、画期的な治療方法として注目されています。一般的な歯周病に加えて、インプラントの歯周病といわれる「インプラント周囲炎」にも効果が期待できるとされています。
歯周病の原因菌を殺菌する仕組み
治療の流れはとてもシンプルです。まず、歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)に消毒薬の一種である「過酸化水素水」を入れます。次に、青い光(LEDライト)をその部分に照射します。すると光と薬が反応し、「ヒドロキシルラジカル」という強力な殺菌成分が生まれます。
「ヒドロキシルラジカル」が歯周病の原因菌および、それらが形成する細菌の塊(バイオフィルム)の細胞膜やDNAを物理的に破壊(殺菌)するという仕組みです。
※ブルーラジカルの「ブルー」は青い光(LEDライト)、「ラジカル」は強力な殺菌成分(技術)を指します。
従来の治療方法と何が違う?
ブルーラジカルは、従来の歯石を除去する機械(超音波スケーラー)を使いながら、同時に殺菌も行います。一度の処置で「歯石や汚れを物理的に取り除く」こと、「奥深くの菌を化学的に殺菌する」ことを同時に行える点が、従来の歯周病治療との大きな違いです。
また抗生物質を使わないため、耐性菌(薬に強い菌)が生まれる心配もないとされています。体に優しく安全性が高いことから、歯周病治療の新たな選択肢として注目されています。
ブルーラジカルはどんな場合に適応される?
現時点におけるブルーラジカルの適応症例は、従来の治療方法では十分な効果が得られなかったケース、あるいは外科的治療が困難なケースなどです。
具体的には、中等度~重度の歯周病、従来の治療で改善しなかった難治性歯周病、インプラント周囲炎などが挙げられます。また糖尿病などの持病によって外科的治療が制限される方や、フラップ手術などの侵襲的治療に抵抗がある方にも有効な選択肢となります。
手術を必要とせず切開や縫合も行わないため、身体的・心理的負担を軽減できるのが大きな特徴です。ただし、すべての方が適応対象というわけではありません。まずは適性について、歯科医師による詳細な診断が必要です。
ブルーラジカルの役割と期待できる効果
ブルーラジカルの主な役割は、歯周ポケット内の細菌を殺菌し、歯周病の進行を抑制することです。優れた殺菌効果により、従来では届かなかった深い歯周ポケット内の細菌も効果的に除去できます。
期待できる効果として、歯茎の腫れや出血の改善、歯周ポケットの深さの減少、口臭の軽減などが挙げられます。侵襲性を大幅に抑えながら、これまでの外科的治療と同等またはそれ以上の効果を実現できる点が評価されています。
またインプラント周囲炎の治療においては、インプラント表面を傷つけることなく細菌を除去できるため、インプラントの長期安定性向上にも寄与します。
期待できる効果の現状
ブルーラジカルを採用する歯科医院が増えたことにより、臨床での実績が蓄積されています。長年にわたって歯周病に悩まされていた方でも、「治療後のX線写真で骨の状態が安定していることが確認できた」「歯の動揺が軽減された」といったケースが報告されているようです。
また、従来の歯周病治療では効果が得られなかった難治性の症例においても、ブルーラジカルで好結果が得られたケースが増えているといいます。
ただし効果には個人差があり、患者さんの口腔内の環境や全身の状態などによって結果が異なることも理解しておく必要があります。
治療の限界と注意点
ブルーラジカルにも限界があります。歯周病の進行を抑制し、現状の維持・改善を図る治療であり、失われた歯周組織(歯槽骨や歯根膜)を再生することはできません。深い歯周ポケットは浅くなりますが、完全に元の健康な状態に戻るわけではありません。
また治療効果を維持するためには、継続的なセルフケアと定期的なメンテナンスが必要です。口腔内の衛生管理が不十分だと、再感染により期待していた効果が持続しない可能性があります。
このほか無カタラーゼ症、光過敏症、妊娠中の方、ペースメーカー使用者などは治療を受けられない場合があるため、事前の十分な問診と検査が重要です。
他治療との比較してブルーラジカルの利点を解説
ブルーラジカルの利点について、従来から行われている歯周病治療と比較をしながら詳しく説明します。
スケーリング・フラップ手術との比較
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)は、歯石や歯垢を物理的に除去する歯周病の基本治療です。ただし歯周ポケットが深いと奥まで器具が届かず、細菌を完全に除去することが困難という欠点があります。また治療時に知覚過敏や出血が生じやすい点もデメリットです。
フラップ手術は、歯茎を切開して歯の根の部分を目で確認しながら清掃する外科的治療です。歯石除去の高い効果が期待できる反面、術後の痛みや腫れ、歯茎の退縮による見た目の変化、長い回復期間が必要などのデメリットがあります。前歯部では、歯茎が下がることで歯が長く見えるという審美的な問題も懸念されます。
ブルーラジカルの優位性は、これらの問題を解決できる点にあります。スケーリング・ルートプレーニングの物理的な除去作用に化学的・物理的アプローチが加わることで、より深部まで細菌を減らすことが期待されます。
またメスを使わずに(切開や縫合をせずに)、従来のフラップ手術と同等以上の殺菌効果や治療効果が得られる点もメリットです。痛みや腫れ、出血といった負担を抑えたい方にとって有効な選択肢となります。さらに治療時間は1本あたり約5分と短く、痛みも軽微で治療後の回復も早いため、身体的・心理的負担を大幅に軽減できます。
レーザー・抗菌療法・PDTとの比較
レーザー治療は侵襲性が少ない治療として普及しています。しかし、主に歯石の除去には優れている一方、細菌に対する殺菌効果は限定的です。また治療に時間がかかり、完全な無菌化も困難とされています。
抗菌療法は抗生物質を用いて細菌を抑制する方法ですが、長期使用による耐性菌の出現が大きな問題となっています。また、全身への影響や副作用のリスクも考慮する必要があります。
PDT(光線力学療法)は、光感受性物質と特定波長の光を組み合わせた殺菌法(ブルーラジカルに似た原理ですが異なる技術)です。歯周病に対する治験が完了しておらず(治験を経ていない機器が多く)、殺菌力もブルーラジカルに比べて劣るとの報告があります。
ブルーラジカルの革新性は、これらの課題を解決している点です。光触媒反応で健康な組織へのダメージを抑えることができるほか、抗生物質を使用しない(物理的に破壊する)ため、耐性菌の心配もありません。
加えて、臨床試験において従来の歯周病治療よりも高い効果が実証されています。治療効果は約3か月持続し、繰り返し治療を受けられるため、長期的な歯周病管理に向いています。
なお、これらの治療法は互いに排他的なものではなく、症状に応じて併用することでより高い効果が期待できる場合もあります。ご自身に合った治療方法はどれか、どのような治療計画で進めていくべきかなど、近くの歯科医院で相談してみるとよいでしょう。
大津 雄人 歯科医師
監修医師が答える!
「ブルーラジカルのメリット・デメリットとは?」
ブルーラジカル治療のメリットとして、特に身体への負担に対しての期待できる効果が高い事が挙げられます。一方で、外科的な手術療法の様に確実に病変を直視で確認する事は困難であり、適応となる状態かどうかの確認や治療後の効果の確認は必須となります。また、ブルーラジカル機械は精密機器であるため高価であり、保険導入されていないため患者様の負担額も大きくなってしまいます。
ブルーラジカルの治療の流れと安全性
ブルーラジカルによる歯周病治療の詳しい手順と、安全性について詳しく解説します。
治療の流れと所要時間
ブルーラジカルは、以下のような流れで進行します。
- 初回カウンセリング:口腔内の状態を詳しく検査し、治療の適性を判断
- 基本治療:歯周病の基本治療(歯石除去やクリーニング)で口腔内環境を改善
- ブルーラジカル:実際にブルーラジカル治療を実施
- 経過確認と定期的なメンテナンス:約1か月後に効果の確認を行うとともに定期的なメンテナンス期間に移行
ブルーラジカルによる歯周病治療では、まず歯周ポケットに過酸化水素を含む薬剤を注入し、青色のLEDライトを照射します。治療時間は1本の歯につき5~10分程度と短時間です。
軽度から中等度の歯周病であれば1~3回の治療で効果が期待でき、重度の場合でも数回の治療で改善が見込まれます。治療後は約1か月後に効果の確認を行い、その後は定期的なメンテナンスに移行します。
安全性と副作用
ブルーラジカルは臨床試験を経て承認された治療であり、殺菌成分である「ヒドロキシルラジカル」という活性酸素は細菌を殺菌したあとすぐに消失するため、人体への影響もほとんどないとされています。また抗生物質を使用しないため、薬に対するアレルギーや耐性菌の心配もありません。
副作用として、治療後に処置した歯茎が一時的に白く見えることがあります(正常な反応です)。通常は1日以内に元の色に戻るとのことなので過度に不安視する必要はないでしょう。また臨床試験で軽い痛みが報告されていますが、これも1日程度で回復します。
ただし無カタラーゼ症、光過敏症、妊娠中、ペースメーカー使用中といった方は治療を受けることができない可能性があるため、事前の問診や検査が何よりも大切です。
ブルーラジカルの費用と保険適用について
ブルーラジカルによる歯周病治療は、公的医療保険が適用されない自由診療となります。2025年9月時点ではまだ新しい治療技術であり、厚生労働省によって承認されているものの、保険診療の枠組みには含まれていないためです。
治療費は歯科医院によって異なりますが、1本につき10,000〜15,000円が相場感です。1ブロック(奥歯や前歯のまとまった範囲)で50,000〜70,000円といった料金設定をしている歯科医院もあります。また軽度から中等度の歯周病治療では数万円から数十万円、重度の場合は数十万円以上かかることもあります。カウンセリングや検査などの費用が別というケースもあるため、事前に詳しく確認しておくことが大切です。
なおブルーラジカルによる歯周病治療は自由診療ですが、「医療費控除」の対象です。年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が10万円を超える場合、確定申告により所得税や住民税の控除を受けることができます。
治療費の負担を軽減するため領収書は必ず保管しておきましょう。また分割払いやデンタルローンに対応している歯科医院も多いので、支払い方法についても相談してみることをお勧めします。
▼ご自身の費用がどのくらいになるか、地域の歯科医院に相談してみましょう。
ブルーラジカルをご検討の方へ。良い歯科医院選びのポイント
ブルーラジカルによる歯周病治療は、まだまだ取り入れている歯科医院が少ないのが現状です。そのため、まずはウェブサイトなどで取り扱っているかどうかを確認することが第一歩となります。その上で、以下のようなポイントに目を向けながら歯科医院を絞り込んでいきましょう。
インフォームドコンセントを重視する歯科医院を選ぶ
まず重要なのは、歯科医師による十分な説明と患者さんの納得・同意(インフォームドコンセント)を重視する歯科医院を選ぶことです。ブルーラジカルには多くのメリットがある一方、治療の限界や治療後のメンテナンスの重要性についても理解しておく必要があります。
「言われるがまま治療に進んだが納得できなかった」などのトラブルを防ぐため、適正、治療の仕組み、効果、費用、デメリット、長期的な口腔管理の重要性について丁寧に説明し、患者さんが納得してから治療に進む方針の歯科医院を選びましょう。
なお医療広告ガイドラインでは、患者の主観的な体験談や「〜No.1」といった優良比較広告を禁止しています。そうした情報だけを頼りにするのではなく、歯科医師としっかりコミュニケーションを通じてその歯科医師の考え方、治療方針などを知ることが大切です。可能であれば複数の歯科医院で話を聞くことで、より自分に合う歯科医院を見つけやすくなります。
歯周病治療の経験が豊富な歯科医院を選ぶ
ブルーラジカルは歯周病治療です。そのため、歯周病の基本治療の経験と実績が豊富な歯科医院を選ぶことも大切です。ブルーラジカルは、単独ではなく従来の歯周病治療と組み合わせることでより高い効果が得られるためです。
検査体制・メンテナンス体制が整っている歯科医院を選ぶ
治療前の検査体制も重要なポイントです。レントゲンや歯科用CTを使った撮影、歯周ポケットの検査などを適切に行い、患者さんの状態を正確に把握してから治療計画を立てる歯科医院を選びましょう。
また、アフターケアとメンテナンス体制が整っているかどうかも確認してください。歯周病は継続的な管理が必要なため、治療後も長期的にサポートしてくれる歯科医院が理想的です。
治療後に後悔しないためのチェックリスト
ブルーラジカルは「天然歯を削る」といった不可逆的な治療ではありませんが、費用が高額になる上に治療後も定期的なメンテナンスが必要で、患者さん自身の口腔管理に対する意識の向上も求められます。
「思っていた治療と違った」「期待したような治療ではなかった」などと後悔しないためにも、以下のような点を事前に確認しておきましょう。
- 治療の適応:自分の状態がブルーラジカルに適しているか、歯科医師の詳しい説明を受けましたか?
- 費用の詳細:治療費の総額、支払い方法、医療費控除の適用について十分に理解していますか?
- 治療計画:通院や治療回数は何回程度になるのか、どれくらいの間隔で通院が必要になるかなどを確認しましたか?
- 治療の限界:ブルーラジカルは歯周組織の再生を行うものではなく、現状の維持・改善を図る治療であることを理解していますか?
- 継続的なケア:治療後も定期的なメンテナンスと毎日のセルフケアが必要であることを承知していますか?
- 他の選択肢:従来の治療法との比較検討を十分に行い、ブルーラジカルが最適な選択肢であることを確認しましたか?
ブルーラジカルによる歯周病治療を検討している方は、事前にこれらの点をクリアにしてから判断することで後悔のない選択ができるでしょう。
まとめ
ブルーラジカルは、歯周病治療の新しい選択肢です。切らない・痛みの少ない治療でありながら強力な殺菌効果を実現し、従来のフラップ手術といった外科治療と同等以上の効果が期待できます。しかし、すべての症例に適応できるわけではなく、治療後の継続的なケアが成功の鍵となります。
自由診療のため費用は高額ですが、医療費控除の対象となります。治療を検討している方は、まずは自身の口腔内の状態を正確に診断してもらい、治療の適正やメリット・デメリットを十分に理解した上で決断することが重要です。
大津 雄人 歯科医師
監修医師からのメッセージ
歯周病やインプラント治療は感染症ですので、細菌のコントロールにより予防する事が可能な病気です。ですので、自覚症状が無いうちから予防やメインテナンスを行う事が非常に有効です。また、もしもこれらの状態になってしまった場合でも病状の進行を食い止めるための治療方法はいくつか存在し、ご自身の年齢、病状、全身状態にあった選択肢を歯科医師と相談して選ぶ事が可能です。ブルーラジカルは選択肢の1つとして有効ですが、まずはご自身の病状を把握するために歯科医院にかかる事をお勧め致します。
以下のリンク先では、全国にある歯周病治療などを取り扱っている歯科医院を駅やエリア単位で探すことができます。自分に合った歯科医院選びに、ぜひ役立ててください。

大津 雄人 歯科医師
監修医師が答える!
「ブルーラジカルが注目されている理由とは?」
歯周病、インプラント周囲炎の治療としてブルーラジカルによる治療は低侵襲でありながら効果が期待できる治療として大変注目されています。従来の方法ではどうしても効果が不十分な場合や身体の負担が大きい事がありますが、ブルーラジカルによる治療では大掛かりな手術を伴わずに効果を期待する事が可能です。