インプラントは高齢になっても快適?後悔しないための知識と選択
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「第二の永久歯」とも呼ばれるインプラントは、失われた歯の機能と見た目を取り戻す治療方法です。しかし「高齢になっても快適に使えるのか」「自宅でのケアはどうすればよいのか」などの疑問を持つ方もいるでしょう。インプラントは長期安定が期待できますが、老後に起こりうるリスクや注意点もあります。
この記事では、インプラント治療が高齢期にどのような影響を与える可能性があるのか、メリット・デメリットや注意点を詳しく解説します。後悔しないためにぜひ参考にしてください。
この記事の監修医師
遠藤 眞次 歯科医師
- 監修
長崎大学歯学部を卒業後、東京と群馬の歯科医院で分院長を歴任しています。臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務めています。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、学会等で精力的に発表を行っています。
インプラントは高齢まで一生ものとして使える?
インプラントは一生ものとして使い続けられるのでしょうか。例として厚生労働省が発表している「インプラントの残存率」に関するデータをご紹介すると、
- 10~15年の累積生存率は上顎で約90%程度、下顎で94%程度
- 抜歯即時埋入や骨移植をともなった埋入は、若干下がるものの87~92%程度
と報告されています(※1)。また同省の別の資料においても
- 歯科インプラントの残存率は10年で92〜95%
- 患者を対象とした残存期間に関する調査では20年との回答がもっとも多い
と報告されています(※2)。
インプラント体(人工歯根)はチタン製で耐久性が高いため、適切な条件下においては上記の調査結果が示すように長期使用できます。とはいえ油断は禁物です。加齢にともなう口腔環境や全身状態の変化が、インプラントの寿命に影響を与えることがあるためです。
またインプラント体だけでなく、上部構造(人工歯)にも寿命があります。たとえば噛む力や経年劣化によって摩耗・破損が生じ、数年から十数年で交換が必要になることもあります。
インプラントを高齢期まで快適に使い続けるには、適切なケアと定期的なメンテナンスだけでなく全身疾患を防ぐ健康管理も重要となってきます。これらを怠るとインプラント周囲炎などのリスクが高まり、長期使用が難しくなるおそれがあります。
※1参照:厚生労働省資料(日本歯科医学会厚生労働省委託事業)「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラント治療のための Q&A 平成26年3月31日)
※2参照:厚生労働省資料 歯科インプラント治療指針 平成25年3月(日本歯科医学会編)
年齢を重ねると起こりうるインプラントのトラブル
インプラントは高い耐久性を持っていますが、高齢になるとトラブルのリスクが高まります。加齢による口腔環境や全身状態の変化が、インプラント周囲炎や上部構造の摩耗などインプラントの維持に大きく影響を与える可能性があるためです。年齢を重ねることで起こりやすくなる主なトラブルについて解説します。
高齢期にリスクが高まるインプラント周囲炎
インプラント周囲の歯茎や顎骨が炎症を起こす「インプラント周囲炎」は、高齢期には特に注意が必要です。初期には歯茎の腫れや出血が見られ、進行するとインプラントを支える顎骨が溶けてインプラント体が脱落することもあります。
天然歯の歯周病に似ていますが、インプラントには神経がないため痛みを感じにくく、気づかないうちに進行するケースがあります。高齢になると、免疫力の低下などからもリスクが高まる傾向にあります。早期発見・早期治療はもちろん、正しいケアと定期的なメンテナンスで予防に努めることも重要です。
全身の健康状態の変化(骨密度、唾液量など)の影響
年齢を重ねると糖尿病などの全身疾患のコントロールが難しくなり、インプラント周囲の組織の治癒が遅れたり、感染リスクが高まったりすることがあります。
このほか、薬の副作用などで唾液の分泌量が減少して口腔内が乾燥する「ドライマウス」も、インプラントの安定性に影響を与える要因となります。唾液には、口腔内を清潔に保ち細菌の増殖を抑える自浄作用があります。その唾液が減ることで、インプラント周囲炎のリスクが高まる可能性があります。
上部構造の摩耗や破損
インプラントの上部構造(セラミックなどの人工歯)は長年の使用で摩耗したり、噛むときの力が強い方・歯ぎしりがある方などは欠けたりすることがあります。また、インプラント体と上部構造を連結しているネジも、長年の使用で緩んでしまうことがあります。
こうしたトラブルが放置されると、噛み合わせの不調やさらなる破損につながるおそれがあります。定期的なメンテナンスを受けるとともに、上部構造に異常(舌触りが変わった等)を感じたら早めに歯科医院を受診しましょう。
かかりつけ医と歯科医師との情報共有が不十分な場合にトラブルが起こる可能性がある
全身の健康状態は常に変化しています。高齢になると複数の疾患を抱えることがあり、人によっては複数の医療機関を受診するケースもあります。インプラントの長期的な安定には、内科などのかかりつけ医と歯科医師との密な情報共有・連携が不可欠です。たとえば、内科で新しく処方され服用を始めた薬にドライマウスの副作用がある場合、歯科医師がその情報を把握することでより適切なケアの仕方をアドバイスできます。
このようにかかりつけ医と歯科医師が定期的に情報を共有していれば、全身の状態も踏まえた上でメンテナンスが受けられます。インプラントの長期的な安定のためにも、歯科医院を受診する際には最新の健康情報を伝えるようにしましょう。
高齢になっても快適に使うためのメンテナンスの重要性
インプラントを長く快適に使い続けるため、年齢を重ねても欠かせないのが「メンテナンス」です。加齢とともに口腔内や全身の状態が変化する中で、日々のケアと定期的な歯科受診を続けることが、インプラントの健康寿命を大きく左右します。
なぜ、年齢を重ねてもメンテナンスが必要なのか?
年齢を重ねると、インプラント周囲炎をはじめさまざまなトラブルのリスクが高まります。インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病と同様に細菌感染によってインプラントの周囲に炎症が起こり、進行するとインプラントを支える骨が失われてしまう深刻なトラブルです。自覚症状が出にくい上に進行も早いため、早期発見・早期対応が非常に重要です。
インプラントは人工物ですが、歯茎や顎骨の健康がその寿命を左右します。メンテナンスを怠ると炎症や骨吸収が進み、最悪のケースとしてインプラントが脱落するおそれもあります。毎日の丁寧なケアに加えて定期的かつ継続的に歯科医院を受診して、快適な口腔環境を維持しましょう。
自宅でのケアは加齢による変化に合わせた工夫が大切
自宅でのケアは基本的なブラッシングに加え、タフトブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロスなどを活用してインプラントと歯茎の境目・歯と歯の間など細部まで丁寧に清掃することが重要です。インプラントの周囲は特に汚れが溜まりやすいため、補助用具をうまく活用しましょう。
加齢により手先が不自由になった場合は、電動歯ブラシで磨いたり家族のサポートを受けたり、訪問歯科ケアを活用したりなど無理なく続けられる方法を選びましょう。加齢によって起こる変化にも柔軟に対応することで、インプラントを長く快適に保つことができます。
歯科医院での定期検診の役割と頻度
歯科医院での定期検診は、インプラントや口腔内の状態をプロの目でチェックし、適切な処置を受けるための重要な機会です。歯科衛生士によるプロのクリーニングで、自分では除去しきれないプラークや歯石を除去してもらえる上に、セルフケアの確認や指導なども受けられます。
またレントゲンによる骨状態確認、噛み合わせチェックなども行ってくれます。これにより、セルフケアでは気づけないインプラント周囲の小さな変化を早期発見できます。
特にインプラント周囲炎の兆候や上部構造の摩耗は、プロの目で確認してもらうことが重要です。一般的には3~6か月ごとの受診が推奨されていますが、患者さんの状態によって適切な頻度が異なります。歯科医師ともよく相談し、自分に合ったメンテナンスプランを立てましょう。
遠藤 眞次 歯科医師
監修医師が答える!
「インプラントを長持ちさせるためのポイントは?」
インプラントを長持ちさせるためには、徹底したセルフケアと歯科医院での定期的なメインテナンスが重要です。健康的な生活を送り、生活習慣病をはじめとする全身疾患を予防することも欠かせません。
もし高齢になってインプラントに問題が起きたら?
どれだけ丁寧にケアをしていても、加齢や体調の変化などでインプラントにトラブルが生じることはあります。高齢になってインプラントに問題が発生しても、それまでと同じように歯科医師に相談しましょう。大切なのは、異変を感じたらすぐに受診することです。
トラブルが発生した場合の主な対応方法
インプラント周囲炎が初期段階であれば、歯科医院でのクリーニングや必要に応じて行う投薬治療で改善が見込めます。また上部構造の破損やネジの緩みといったトラブルも、速やかに相談することで比較的簡単に修理・交換できる可能性があります。そのため過度に心配する必要はありません。
そもそもこれらのトラブルは、定期的なメンテナンスを継続していれば早期発見できることが多く、大がかりな処置をせずに対応できるケースがほとんどです。異常を感じたらすぐに歯科医師に相談すること、自己判断をせず速やかに歯科医師に相談することが大切です。
インプラントが維持できなくなった場合の選択肢
万が一インプラント周囲炎が進行しすぎたり、インプラント体が骨と結合しなくなってしまったりしてインプラントの維持が困難になった場合でも、代替となる治療法は存在します。たとえばブリッジや入れ歯(総入れ歯・部分入れ歯)などが挙げられます。
ただしブリッジは健康な歯を削る必要があり、耐久性もインプラントに比べると高くはありません。入れ歯も同様に、インプラントに比べて安定感に欠ける上に清掃も手間がかかるなど、不便さを感じる可能性があります。
そのため、まずはトラブルを未然に防ぐことを最優先に考え、小さな違和感でもできる限り早い段階で歯科医師に相談することを心がけましょう。
まとめ
インプラントは、適切なケアと定期的なメンテナンスを継続すれば高齢になっても安定して機能することが期待できる治療法です。全身の健康管理も重要で、かかりつけ医との連携もインプラントを長く快適に使うための重要な要素となります。
高齢になるとインプラント周囲炎などのリスクが高まることもありますが、日々の丁寧なブラッシングとタフトブラシ、歯間ブラシなどを活用したセルフケア、歯科医院での定期検診でトラブルの予防・早期発見が可能です。
インプラントは、高齢になっても自分の歯のように噛む喜びを味わえる、生活の質の維持に大きく貢献しうる選択肢です。将来を見据え、適切なケアと定期的なメンテナンスを継続することで、健康な口腔環境を維持していきましょう。
遠藤 眞次 歯科医師
監修医師からのメッセージ
インプラント治療は歯を失った際の「第一選択」ともいえる治療法です。インプラント治療を通して、お口の健康を取り戻しましょう。
以下のリンクでは、インプラント治療を提供している全国の歯科医院を駅やエリアから探すことができます。

遠藤 眞次 歯科医師
監修医師が答える!
「インプラントの残存率って実際はどれくらい?」
私の実感としても、「インプラントの10年生存率は90%程度」とする各種の報告に納得しています。数年に一度は、インプラントを除去しなければいけないケースに出会いはするものの、インプラントは総じて治療成績が優れていると言えるでしょう。